Netflixドラマ『地面師たち』のモデルとなった「積水ハウス地面師詐欺事件」。
2017年、誰もが知る大手住宅メーカー・積水ハウスが総額63億円(うち55億円が未回収)をだまし取られた、戦後最大級の不動産詐欺事件です。
舞台は東京都・五反田の一等地。
しかし、この事件の本質は「巧妙な詐欺」だけではありません。
大企業の驕り、内部統制の欠落、そして“見えない黒幕”が交錯する――。
そこで今回この記事では
- 2017年の積水ハウス地面師詐欺事件 / 戦後最大の不動産詐欺の真相と、社内判断ミス・黒幕の存在
など、あまり知られていない驚愕の事実を年表とともに徹底的に掘り下げますので、
ぜひ最後まで読んでいってください!
それでは、早速始めましょう!
積水ハウス地面師詐欺事件の詳細・犯人 / 戦後最大の不動産詐欺の裏側
出典:ウキペディア
舞台:五反田「海喜館」—100億円の土地を巡る攻防
事件の舞台は、JR五反田駅から徒歩3分の老舗旅館「海喜館(うみきかん)」。
600坪(約2000㎡)もの一等地は、時価100億円ともいわれていました。
所有者は旅館経営者の海老澤佐妃子さん(当時72歳)。
彼女は旅館を閉業した後も、「この土地だけは売らない」と頑なに守り続けていたのです。
――その執念が、地面師たちの“標的”になるとは知らずに。
主犯たちの異常な経歴と役割分担
● 内田マイク(首謀者)
元有名デベロッパー「ABCホーム」財務部長。
不動産業界の裏も表も知り尽くす男が、権利証や偽造書類の仕掛け人となりました。
→ 懲役12年(2020年3月確定)
● カミンスカス操(実行役リーダー)
本名は小山操。元デベロッパー営業本部長。
2017年、リトアニア人女性と偽装結婚し“カミンスカス”姓を得て逃亡。
事件後はフィリピンで豪遊、1夜に100万円を使うことも。
→ 69日間逃亡ののち逮捕。
● 羽毛田正美(なりすまし役)
元生命保険レディ。
本物の海老澤さんに成りすまし、積水ハウス社員との面談・契約を遂行。
「干支を間違える」などの不審点があっても、見逃されました。
● 秋葉紘子(キャスティング担当)
“偽の所有者役”をスカウトするキャスティング専門。
Netflixドラマで小池栄子が演じたキャラのモデルとも言われます。
事件の時系列:なぜ積水ハウスは騙されたのか
年月日 | 出来事 |
---|---|
2017年2月13日 | 本物の所有者・海老澤佐妃子さんが入院。地面師グループが動き始める。 |
4月4日 | 積水ハウス営業部へ“売却話”が持ち込まれる。 |
4月24日 | 売買契約締結、手付金14億円支払い。 |
5月10日 | 本物の海老澤さんから「契約無効」の内容証明が届くが、“怪文書”扱い。 |
6月1日 | 決済日を前倒し、残金49億円支払い。合計63億円支出。 |
6月6日 | 法務局から「登記却下」通知。詐欺が発覚。 |
6月24日 | 海老澤さん死去(事件発覚3週間後)。 |
8月2日 | 積水ハウスが被害を公表。 |
驚愕の内部事情:積水ハウスの「社長案件」
- 通常4人の回議(承認プロセス)を社長が飛び越えて承認
- 不動産部長が「この取引はおかしい」と警告するも黙殺
- 現場では「社長案件」と呼ばれ、異論を封じる雰囲気に
さらに、海老澤さんから4通もの警告文書が届いていたにも関わらず、
「妨害行為だ」として無視。
むしろ、決済日を2ヶ月も前倒しする異常対応を取ってしまったのです。
地面師たちの手口:完全分業の“詐欺企業”
役割 | 担当者 | 内容 |
---|---|---|
首謀者 | 内田マイク | 全体統括・偽造書類準備 |
実行役リーダー | カミンスカス操 | 積水との交渉・現場指揮 |
なりすまし役 | 羽毛田正美 | 所有者への成りすまし |
銀行屋 | 北田文明 | 資金受け皿口座を準備 |
金融担当 | 土井淑雄 | 小切手換金・資金分配 |
キャスティング | 秋葉紘子 | なりすまし役をスカウト |
書類偽造 | 不明 | 偽造パスポート・印鑑証明書作成 |
“預金小切手”という盲点
銀行振込ではなく、換金痕跡の残りにくい預金小切手を使用。
63億円が複数口座を経由し、瞬時に分配されました。
結果、55億円はいまも行方不明です。
事件後の余波:社内クーデターと裁判の果てに
🔹 積水ハウス社内の分裂
- 会長 vs 社長の対立が勃発
- 2018年、和田勇会長が解任動議 → 否決され辞任
- 2021年、阿部俊則会長も退任へ
🔹 民事・刑事裁判の行方
- 刑事判決:主犯格に懲役12年など有罪判決
- 民事判決:被告10人に計20億円の賠償命令
(ただし回収見込みはほぼゼロ)
🔹 株主代表訴訟
- 「経営判断の範囲内」として棄却(大阪地裁、2022年)
そして今:跡地に立つ“アトラスタワー五反田”
皮肉にも、積水ハウスが失った土地には、
ライバル企業・旭化成不動産レジデンスが開発した超高層マンション
「アトラスタワー五反田」が2023年に完成。
失われた63億円。
残されたのは、企業ガバナンスの教訓と、地面師たちの影だけでした。
未解明の謎:黒幕は本当に“地面師たち”か?
- 55億円の行方 — 現在も大部分が不明。
- 黒幕の存在 — カミンスカス操は獄中から「真の黒幕は別にいる」と証言。
- 社内リークの可能性 — 内部情報が流出していた形跡あり。
- 不起訴の5人 — 検察が理由を明かさず。事件の全貌はいまだ闇の中。
事件年表(2015〜2025)
年月日 | 出来事 | 詳細・背景 |
---|---|---|
2015年 | 旅館「海喜館」廃業 | 東京都品川区西五反田2丁目の老舗旅館。所有者・海老澤佐妃子が「土地は絶対に売らない」と公言。 |
2017年2月13日 | 海老澤佐妃子が末期癌で入院 | 日赤医療センター。面会謝絶の状態となり、地面師グループが動き出す。 |
2017年3月頃 | カミンスカス操(本名:小山操)がリトアニア人女性と結婚 | 改姓により“カミンスカス操”名義で活動。逃亡準備を整える。 |
2017年4月4日 | 積水ハウスに売却話が持ち込まれる | 「所有者の海老澤氏が土地を売りたがっている」と地面師が接触。 |
2017年4月24日 | 売買契約締結・手付金14億円支払い | 所有者になりすました羽毛田正美が登場。積水ハウスが書類確認を怠る。 |
2017年5月10日 | 本物の海老澤氏から内容証明郵便 | 「売買契約はしていない」との通報。だが積水ハウスは“妨害行為”と誤判断。 |
2017年6月1日 | 残金49億円を支払い、詐欺成立 | 合計支払額63億円。法務局登記却下で初めて詐欺に気づく。 |
2017年6月24日 | 海老澤佐妃子が死去 | 詐欺発覚の3週間後。真相を語ることなく逝去。 |
2018年1月24日 | 積水ハウス社内クーデター | 会長と社長が対立。経営責任を巡る混乱。 |
2018年12月19日 | カミンスカス操がフィリピンで逮捕 | 69日間の逃亡の末、拘束。現地では豪遊していた。 |
2020年3月 | 主犯・内田マイクに懲役12年判決 | 不動産業界OBによる高度な詐欺手口が認定される。 |
2021年1月・2024年11月 | 民事訴訟で計20億円の賠償命令 | 被告10人に賠償命令。ただし回収見込みはほぼゼロ。 |
2022年5月20日 | 株主代表訴訟、元社長への請求棄却 | 「経営判断の範囲内」と大阪地裁が判断。 |
2023年 | 跡地に「アトラスタワー五反田」完成 | 土地は旭化成不動産レジデンスが取得。積水ハウスがだまされた土地に、ライバル企業の高層マンションが立つ。 |
2025年現在 | 55億円の行方は不明 | 一部資金は海外送金の可能性。真の黒幕は未特定。 |
人物相関図(テキストビジュアル)
┌──────────────┐
│ 海老澤佐妃子(被害者)│
│ 海喜館元経営者・入院中 │
└──────┬───────┘
│なりすまし
▼
┌────────────────┐
│ 羽毛田正美(なりすまし役)│
│ 元生命保険レディ │
└──────┬──────────────┘
│スカウト
▼
┌────────────────┐
│ 秋葉紘子(キャスティング担当)│
│ なりすまし人材の斡旋 │
└──────┬──────────────┘
│指揮・資金統括
▼
┌────────────────────────────┐
│ 内田マイク(首謀者) │
│ 元デベロッパー財務部長/詐欺構造の設計者 │
└──────┬──────────┬─────────────┘
│交渉・実行 │資金管理
▼ ▼
┌────────────────┐ ┌────────────────┐
│ カミンスカス操(実行役) │ │ 土井淑雄(金融担当)│
│ 元営業本部長/逃亡→逮捕 │ │ 小切手換金・分配 │
└──────┬──────────┘ └──────────┬─────┘
│口座準備 │偽造書類支援
▼ ▼
┌────────────────┐ ┌────────────────┐
│ 北田文明(銀行屋)│ │ 書類偽造チーム │
│ 資金移動・口座開設 │ │ パスポート・印鑑証明偽造 │
└────────────────┘ └────────────────┘
組織構造のポイント解説
- 内田マイクが「設計者」として全体を管理。
- カミンスカス操が現場交渉・積水ハウスとの契約担当。
- 羽毛田正美が“偽の海老澤”として面談・契約に登場。
- 秋葉紘子は“役者”をスカウトするキャスティング役。
- 北田・土井は金融面で詐欺資金を管理。
- 書類偽造チームは区役所をも欺き本物の印鑑証明書を偽者に発行させた。
詐欺成功の要因(積水ハウス側のミス)
- 本人確認の形式化
幹部承認が形骸化し、実質的な本人確認が行われなかった。 - 警告無視の連鎖
本物の所有者から4通も届いた内容証明を「妨害行為」として無視。 - 決済前倒しの暴走
社長の“飛び越し承認”により、通常2か月後の決済を前倒し実施。 - 小切手決済という盲点
振込ではなく預金小切手を用いたことで、資金追跡が困難に。
未解明の謎
謎 | 内容 |
---|---|
💰 消えた55億円 | 一部は海外送金か。現時点で所在不明。 |
🕴️ 黒幕の存在 | カミンスカス操が「真の黒幕は別にいる」と獄中書簡で証言。 |
🧩 社内リーク疑惑 | 積水ハウス内部情報が流出していた形跡。 |
⚖️ 不起訴の5人 | 検察が不起訴理由を明かさず、事件の全貌は闇の中。 |
事件の結末と現在
- 刑事裁判:主要メンバー10名有罪。主犯内田マイクに懲役12年。
- 民事訴訟:被告10人に計20億円の賠償命令(未回収)。
- 土地の現在:旭化成不動産が取得 → 「アトラスタワー五反田」として再開発。
- 積水ハウス内部:社長と会長の対立を経て、経営陣一新。
まとめ
- 地面師たちは「病床の所有者」+「完璧な偽造」+「企業の油断」を突いた。
- 積水ハウスは“社長案件”として反対意見を封じ、ガバナンス崩壊。
- 事件は単なる詐欺ではなく、企業文化の盲点が招いた組織犯罪だった。
💬 この事件が残した最大の教訓:
「どんなに大企業でも、“確認を怠れば、国家レベルの詐欺に屈する”。」
- 所有者が入院中というタイミングを突いた完璧な詐欺構造
- 「本物の内容証明を無視した」企業判断のミス
- 地面師たちの犯罪が、国家レベルの司法書類・行政手続をすり抜けた異常性
この事件は単なる詐欺ではなく、
「組織の盲信」「確認プロセスの形骸化」「権限集中」という、
日本企業が抱える構造的問題を浮き彫りにしました。
また、プロ中のプロと呼ばれる地面師たちの巧妙な手口と、大企業の組織的な判断ミスが重なり合って起きた、日本の不動産詐欺史上最大規模の事件となりました。
特に、本物の所有者からの警告を無視し続けた積水ハウスの対応は、企業ガバナンスの重要性を示す教訓として、今も語り継がれています。
コメント