2017年、63億円が一瞬で消えた“戦後最大の不動産詐欺”。
その中心にいたのは、東京マンション事業部の一人の営業次長でした。
事件から7年――。
そこで今回この記事では
- 積水ハウス地面師事件で中心を担った営業次長の“その後”と処分の全容を年表で解説
公式報告書が示した「不正関与なし」の真相と沈黙のなかで明らかになった“あまり知られていないその後”を
追いますので、ぜひ最後まで読んでいってください!
それでは、早速始めましょう!
積水ハウス地面師詐欺事件・担当者のその後 / 営業次長・沈黙の7年

事件の概要:五反田「海喜館」63億円詐欺の衝撃
東京都品川区・五反田の老舗旅館「海喜館」。
この一等地をめぐって、2017年、積水ハウスが地面師グループに約63億円を詐取された
この事件は不動産業界を揺るがせ、Netflixドラマ『地面師たち』のモデルとも言われました。
しかし、多くの報道が“犯人グループ”に焦点を当てる中、
実務の最前線に立っていた営業次長(A1)の存在は、ほとんど知られていません「。
事件の発端から決済まで、わずか3か月――
彼の判断と、組織の意思決定の甘さが交錯していたのです。
結論(要点)
- 実務の中心だった東京マンション事業部の営業次長(A1)は、社内外の調査で地面師側との不正関係は確認されず、刑事責任の対象にもなっていません(総括検証報告書)。
ただし、事件の“起点”となったため、意思決定と本人確認の甘さが厳しく検証対象となりました。
出典:積水ハウス 総括検証報告書 - 役員クラスでは、全取締役が減俸(2か月)。
その後、マンション事業本部長・三谷和司氏が辞任。
法務部長・中田孝治氏、不動産部長・黒田章氏も職責を解かれ、のちに執行役員が退任しています。
出典:積水ハウス プレスリリース/毎日新聞 - 一方、文春オンラインは「営業次長=小田氏」と名指し。
「取引の最初から最後まで担当」と報じられましたが、同時に“厚遇された”との証言も掲載されました。
ただし、公式資料は実名を匿名(A1)表記としており、報道間で温度差があります。
出典:文春オンライン - 2024年11月、東京地裁が地面師側5名に約10億円の賠償命令を下すも、
社内担当者の新たな動きは報じられず、焦点は加害者の責任とガバナンス再建へ移行しました。
出典:The Japan Times - ネット上に流布した「担当者死亡説」などの噂は裏付けがありません。
一次資料・主要紙いずれも否定しており、社員と地面師の“私的関係なし”と明記されています。
出典:積水ハウス 総括検証報告書
年表|“担当ライン”のその後
年月 | 出来事 | 出典 |
---|---|---|
2017/9/7 | 取締役会が全取締役の減俸処分(会長・社長は20%×2か月) | 積水ハウス |
2017/12/8(12/20公表) | 三谷和司(本部長)辞任/中田孝治(法務部長)異動/黒田章(不動産部長)配置換え | 積水ハウス |
2018/3頃 | 法務・不動産両部長の退任方針が報道 | 毎日新聞 |
2020/12/7 | 総括検証報告書公表。A1(営業次長)の不正関与なし | 積水ハウス |
2024/11/28 | 詐欺グループ5人に10億円賠償命令(東京地裁) | The Japan Times |
担当者ラインに関する“あまり知られていない事実”
① 実名は伏せられ、報告書では役職コードで記載
社外公表文書では「A1=営業次長」などの匿名コードで表記されました。
個人を責めるより、組織構造の欠陥を検証する姿勢が明確だったのが明らかです。
→ 責任は“個人”よりも“プロセス”にある。
② 社員の刑事関与は一切確認されず
起訴10名(うち6名有罪)のうち、積水ハウス社員は含まれていません。
社員側の刑事・民事責任はいずれも対象外とされています。
③ 処分の中心は“ライン長級”と“全取締役”
現場担当者への個別懲戒は非公表のままとなっています。
企業として「組織処分で幕引き」を選んだのです。
④ “営業次長=小田氏”と報じた文春記事の存在
文春オンラインは「厚遇された営業次長」と報道しています。
ただし、一次資料では匿名化され、公式評価とは一致していません。
記事間で人物描写に差があるのは事実です。
⑤ 「死亡説」や“口封じ”の噂は完全否定
一次資料・裁判記録・主要報道いずれにも該当情報はありません。
総括報告書では、むしろ「社員と地面師の私的関係は存在せず」と明確に否定されています。
位置づけの整理:誰がどうなったのか
階層 | 氏名・役職 | その後の経緯 | 出典 |
---|---|---|---|
現場実務 | A1(営業次長) | 不正関与なし。匿名のまま検証対象(懲戒非公表) | 積水ハウス |
部門長級 | 三谷和司(本部長) | 辞任(2017年12月) | 積水ハウス |
中田孝治(法務部長) | 総務担当執行役員へ異動→退任 | 積水ハウス | |
黒田章(不動産部長) | CRE事業部長へ異動→退任報道 | 積水ハウス/毎日新聞 | |
役員クラス | 全取締役 | 減俸処分(2か月) | 積水ハウス |
事件が残した教訓:「沈黙の構造」
この事件が象徴するのは、“誰も疑わなかった”ことの恐ろしさ。
営業次長は「法務と弁護士が確認したから」。
法務は「上層部が承認したから」。
そして組織全体は「大企業だから大丈夫だろう」。
結果として、人間の思考停止が連鎖し、63億円が消えました。
それは、一人の失敗ではなく――組織そのものの過信だったのです。
行動年表(2017年4〜6月)
営業次長A1を中心に、メール・稟議・決裁の流れだけを再構成しています
日付 | 主な動き | 関与者/内容 |
---|---|---|
4/24(月) | 海喜館の「二段階契約」を締結。司法書士立会いのもと、偽Xが登場 | A1・A2(課長)・司法書士・仲介業者 |
5/19(金) | 海喜館内覧で“X宛郵便物”を確認し、本人確認と誤認 | A1・弁護士・仲介側 |
5/23(火) | G1弁護士事務所で偽Xと面談、「本人確約書」に署名 | 三谷本部長・不動産部長・A1 |
5/30(火) | 三谷本部長が社長(阿部)へ報告、「ブローカー相関図」を書面提出 | 社長決裁に向けた事前共有 |
5/31(水) | 登記書類を「本人確認情報」に切替、残代金準備完了 | 不動産部・法務部・A1 |
6/1(木) | 決済実行。直後に「真の所有者名乗り」発生し、警察へ報告 | A1・不動産部長・弁護士・警察 |
6/6(火) | 偽造保険証が発覚、登記却下方針 | 法務局 |
6/9(金) | 登記却下通知 → 取締役会報告。社内処分・調査へ | 全社報告ライン |
社内報告ライン(テキスト相関図)
A1(営業次長)
├─ A2(事業開発課長)……現地調整・面談対応
├─ 不動産部長(B3)……登記・決済実務統括
├─ 法務部長(中田孝治)……本人確認情報の助言
└─ 三谷和司(本部長)
└─ 社長(阿部俊則)……5/30に最終報告
社内稟議は原則「不動産部 → 経営企画・法務・経理 → 役員 → 社長決裁」という流れでした。
本件は、“前倒し決済”という例外措置が現場判断で進み、
結果として組織のチェック機構が形骸化していました。
まとめ
「A1」という匿名は、
責任を逃れた個人ではなく、構造の犠牲者を意味しているのかもしれません。
7年経った今も、積水ハウスの内部では“あの決裁”の影が残っています。
しかし、その沈黙の中で私たちが学ぶべきは、
「誰もが他人任せにしない勇気」を持つ、ということでしょう。
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